日本の刺繍と世界の刺繍

掻取 朝香宮允子妃所用 明治~昭和時代初期/文化学園服飾博物館資料
掻取 朝香宮允子妃所用 明治~昭和時代初期/文化学園服飾博物館資料

 

 

みなさま、ごきげんよう。

Classical Princess Japonのホームページをご覧いただき、ありがとうございます。

 

少し前になりますが、文化学園服飾博物館で開催されていた

『世界の刺繍』展の視察に行ってまいりました。

世界各地(35ヶ国150 作品/専門職人から主婦の作品まで)の刺繍が地域ごとに展示されており、

多種多様な刺繍の技法についても解説が行われていました。

 (キュレーターの方にお話を伺うこともできました!)

 

特に日本のコーナーでは、Classical Princess Japonが手掛ける着物バッスルドレス

(着物バッスルドレスの歴史については、こちらをご覧ください)

にゆかりのある、江戸時代の小袖、明治期の振袖等、

貴重なアンティーク着物の数々が展示されていました。

 

 

さて、ここで質問です。

 

服の生地を華麗に彩る刺繍ですが、

審美的用途(装飾のため)以外に、

どのような役割を果たしてきたでしょうか?

 

 

役割その1は、保温。

これは特に寒い地方で見られるのですが、

生地に刺繍を施すことで、より強固なものとなり、

物理的にも風を通さない構造となることがわかります。

役割その2は、生地の補強。

その3は、外敵からの防御(物理的な意味はもちろん、心理的な「魔除け」としても)。

その4は、アイデンティティを示す(シンボルを用いてどこの部族かを表す)。

というように、審美的用途以外にも様々な役割を果たしていることがわかります。

 

織や染めの技術は大掛かりな設備が必要であるのに対し、

刺繍は手作業でできるものなので、世界中で親しまれたそうです。

 

ここでざっと世界の刺繍を俯瞰してみると…

 

ヨーロッパの刺繍の特徴:

アジアの刺繍に比べて柄に意味が無く、植物や動物をモチーフにしたものが多い。

審美的な意味での「美しさ」を追求している。

 

アフリカ:

北部と南部で特徴に違いが見られ、

北部ではイスラム圏やヨーロッパの影響、南部では民間信仰の影響が色濃く反映。

 

西・中央アジア:

イスラムの教えが刺繍にも及び、

偶像崇拝が禁止されていることから、幾何学的な図柄が

発展していった経緯が見て取れる。

 

そして、日本の刺繍コーナー。

ここでは、時代の変遷とともに、

刺繍自体がそれぞれの日本の社会でどのように扱われてきたかに

ついて考えを巡らせました。

 

たとえば江戸期の衣装を比較してみると、

所属する階級ごとに、全く違う技術が採用されていたことがわかります。

武家の女性と宮中の女性の着物を比較するとその違いは顕著に見られ、

武家女性が身にまとっていた着物の図柄には、

「染めと刺繍」という2つの技術が採用されていましたが、

宮中の女性の着物は、「刺繍」のみで表現されるという原則がありました。

 

その結果、例えば武家女性の小袖には、

遠近感のある日本画のようなストーリー性が見られ、

公家女性の振袖はダイナミックで華やかな雰囲気という、

同時代の着物でも方向性の異なるデザインのものが生み出されました。

 

特に興味深かったのが、開港前(江戸)と開港後(明治)の変化について。

それぞれの作品をじっくりと比較してみると、

開港前には日本に無かった外来種の花々が描かれるようになり、

またその構図も大胆になっていく様子がわかります。

大正期の作品(打掛)になると、在来種の「松」と外来種の「薔薇」が同居した

和洋折衷型の刺繍が見られるようになります。

 

刺繍自体は普遍的な技術として全世界に見られるものですが、

その役割は各地域・時代によって異なり

風土や社会システム、また宗教と密接に関わりながら

多種多様な形で表れることに改めて気付かされる展示でした。

 

また日本の着物地を前にし、豊かな自然との確かな結びつきの中で、

日本ならではの四季折々の美しさを反映する

職人技・手しごとが育まれてきた経緯が手に取るようにわかりました。

 

特に着物の刺繍には、写実的な技術と、侘び寂びや余白を活かした技が

共存しています。それらが複合的に共鳴し合うことで、

美しさだけではない、自然の儚さや切なさといった日本ならではの

奥行きのある感情が表現されているように思えました。

 

展示会視察後、改めて私どもで手掛けるドレスの

刺繍を見直して、施されている技術の細やかさ・魅力を再発見した次第です。

Classical Princess Japonの着物バッスルドレスをご着用になった際は、

その技術をぜひ肌で感じてみてくださいね!